「ちょっと うるさいんよ 黙っといてくれん?」
出勤の支度をしていた時
テレビを観ていた夫に 言われた
「はぁ?」
私は言われた意味が 分からなかった
大声を出した訳でもなく 話し掛けてもいない
「テレビの邪魔して無いけど?」
「独り言が 多すぎるんよ」
「ず~っと 喋りよるじゃん」
夫にそう指摘されて はたと気が付いた
「ホンマや」
さっきは カウンターの果物籠から
バナナを取っていて
『バナナが一本ありました~♪
バナナん♫バナナん♫ バ・ナァナ~』
と、「とんでったバナナ」を歌っていたし
その前は お茶葉っぱを急須に入れる時
『お茶茶のチャチャチャ♫ お茶茶のチャチャチャ~』
と、おもちゃのマーチを パクっていた
自覚が無いまま 私は何かする度に
歌や言葉を発していた
驚いたものの 何だか納得がいかない
「私の話は いっつも聞いて無いくせに
何で独り言は スルーできんのよ」
「これは独り言で声出して 腹筋を鍛えてるんよ」
ほぼ負け惜しみの 返しをすると
「認知症の初期かもよ」
夫は真顔で テレビの音量を上げた
それから私は「独り言」を封印して
何をするにも 黙ってやった
まるで「私の機嫌が悪いんじゃないの」的な
不気味な沈黙
しかし 習慣とは恐ろしいもので
つい言葉を 発してしまう
「独り言言 ひとり言~ 合わせて言言 ふたり言~」
カエルピョコピョコの調子で 呟いている
「ワケわからん」と
夫が 呆れていた
そりゃそうだ 自分でも「意味不」だもん
独り言我慢も 「夫に負けた」気がして
何か癪にさわるな...
朝 私はよく鼻唄を歌う
今朝は「世界に一つだけの花」を 歌っていた
起床して 洗顔していた夫は
口ずさんでいた
しばらくすると リビングに向かう夫の鼻唄が
いつの間にか「世界に一つだけの花」に 変わっていた
本人の知らぬ間に 仕掛けたこの勝負
「勝った!」
思わず 小さくガッツポーズをして
しばし 勝者の気分を味わった