硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

瓦製の仏祠(ぶつし)

山城跡地の苔むした祠の

近くに立つ表示板に

「昭和六十二年五月」と 記されている

 

遊歩道を整備した時に 

この祠が 安置されたのだろう

市町村の文化財リストには

掲載されていない

❲↑天辺に 宝珠という球状の飾りが有ったはずだが 見当たらない❳

 

神社建築には 屋根が宝形(方形)造のものは無いので

やはり 仏様を祀った祠と思われる

隣の小さな厨子も 仏だろうか

 

❲瓦製の厨子は切妻屋根❳

私が訪れる前の祠には 又訪問者がいた

祠の周囲は 落ち葉を掘り返した跡があった

腐葉土の中に隠れているミミズを

補食する猪だろう

彼等の身体が 少しでも接触すれば 

傷みの激しい祠は 崩壊してしまう

 

先週お供えしたシキミは 

まだ青々としていた

山道を歩きながら 

シキミと山野草を摘んで来た

 

ドクダミ ヒメジョオン ミズキ 

ホタルブクロ オカトラノオ

花立てに 挿していく

 

シキミの緑の葉に 

小さな白い花が  寄り添う

木々に囲まれ 日差しの少ない場所に建つ

苔むした祠には 清楚な花がよく似合った

❲自然災害?で崩壊寸前❳

お線香の煙が 立ち上ぼる間

花の名前 暦 現代の事

私は思い浮かぶまま 独り言のように呟き

チーは黙って 煙が絶えるのを待っていた

 

時折聴こえる カッコウの声

ひんやりとした城跡に

夏を呼んでいる

 

 

山城跡地を下りて 遊歩道を歩く

ところが 途中でいきなり

チーが斜面を上りだした

『又かよ』

訳が分からないまま 

結構な急坂を這うようにして上る

高台に着いて 気が付いた

ここは 私が最初に足を踏み入れたルートだ

右に行けば アンテナが建っていた場所

 

チーは やや左前方に走り出した

「君みたいに 四つ足じゃないんだからねー」

そう言いながら 

私は 低木の細い枝を

手で払ったり 潜ったりしながら

追いかけていたら

祠の背面が 視界に入って来た

 

『ここに出るのか』

そう思ったが チーは止まらない

「また お邪魔しましたー」

脱帽する間も あらばこそ

祠の横を バタバタと通り過ぎる

 

右に行って 又引き返し

左と思えば 真っ直ぐ

まるで鬼ごっこ

 

木の根に足を取られ

危うく 躓きそうになり

「ちょっとー! もう勘弁してー」

私は 怒りを含んだ声をあげ

リードを引っ張り

ちっとも楽しくない

ごっこを 終わらせた

肩で息をしながら

『最初からこうすれば良かった』

 

その後の彼女は 落ち着いて歩きだし

いつもの下り坂に 到着した

歩道に下りて

「今日は 良い運動をさせてもらいました」

山城跡地に向かって 呟いた時

 

背後から チーの甘え鳴きが聞こえた

振り返ると 案内板に飛び付いている

見えない相手に 慌てて頭を下げる 

 

端から見たら 誠に滑稽な光景

自分でも 可笑しいと思う

作り話のように 思われるだろうが

事象は事実

解釈は 私の妄想だろう

 

人は祈る 神に 仏に

見えない者は 生きている者へ

大きな影響力を 持っている

 

ここに城があった時代から

それは ずっと変わらない