硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

山城跡地の祠 再び

右手にお散歩リード 左手に虫防御用うちわ

大きめ斜めがけショルダーバックに

お墓参りセットを完備して

私は山城跡地の 荒れた祠の前に立った


sakutamatengo.hatenablog.com

 

土佐を平定し 勢力を拡大する長宗我部軍の

伊予侵攻の勢いは 凄まじく

この山城は 天正12年(1584年)に落城した

城主と奥方は 自害したという

 

先日 偶然見つけた山城跡地の

荒れた祠に 背を向けたのは

400年以上も昔 無念の思いで命を落とした者達が

今も この場所にさ迷っている気がして

怖気付いたから

 

自害したのは別の場所で ご供養もされていると分かり

ビビりの私も 再び足を運ぶ気になった

 

驚いたのは あの日以降 

誰かが ここを訪れた形跡があったこと

祠にあった 酒瓶が1本減って 2本になっていた

茶色い陶器の花立ても 見当たらない

 

しかし そんな事を気にしていても 仕方がない

プラスチック製のパイプに 挿してあった

枯れ枝を 新しいシキミと交換し

転がっていた茶湯器を ペットボトルの水で綺麗に洗い

水を満たして お供えした

一部破損している線香立てに

お線香を手向け

念仏を唱えた

 

❲瓦製の祠の右側面❳

 

近くの木に繋がれた 愛犬チーが 

退屈してキュンキュン鳴くので 

お線香が消えるまで

周囲を 一緒に散策していたら

祠の後ろにある 檜の根元に

空になった酒瓶1本と

茶色の花立が2つ転がっていた

 

ここの管理者が 訪問したのなら

祠の中を 綺麗に整えただろう

誰かが悪戯心で お酒を棄てたのなら

花立てまで移動した意味は 何だろう 

 

何だか薄気味悪くなって

「もう ここに来るのは 止めた方がいいかもしれない」

そんな気になった

 

立て掛けたお線香が 陶器の縁に触れて消え

一本だけ残っている火も 消えかけ

もう大丈夫だろうと 祠を後にした

❲ 祠の前から見上げる ❳

 

山城跡地を下りた後 遊歩道を回り

広場に戻る道へ 向かおうとしたが

チーが反対方向にある

山城の案内板の方へ 戻る

帰り道は先へ先へと進むのに 珍しいな

 

ついて行くと 

突然 案内板の側面に飛び付いて

キュンキュン甘え鳴きをして 匂いを嗅いでいる

 

箱型になった  案内板の中に

何か生き物が潜んでいるのか?

屈んで下から覗いても 

底板は キチンとはまっていて

穴も空いていない

 

 

「なんにも無いじゃん」 

チーの方に向き直ると

山城跡地の方に 歩き出している

迷う様子もなく 斜面を上って行く

 

「え~っ 又 行くのぉ~?!」 

追いかける私も 手をつき 這うようにして 急坂を上る

『線香でボヤでも起きているのかも』と 焦った

 

チーは 真っ直ぐに祠まで行くと 

覗き込むような 仕草を見せたが

直ぐに退いた

お線香の火は 消えていた 

 

やっぱり 最後まで確認せよという教訓かな

「それじゃぁ もう一回お参りするか」

そう言って 手を合わせた

 

帰りの道すがら考える

この違和感は何だろう 

前回の 笛の音もそうだが 

今回の チーの行動も不可解だった

 

同じ場所に もう一度行くのには 必ず理由がある 

あそこには 美味しい木ノ実は無い

本能をくすぐる 獲物(山鳥・野兎)に

遭遇した訳でもない

なのに 何故?

思い返すうちに

一つの仮説に 行き当たる

 

あの子は 人が大好きな『かまってちゃん』

人に出会うと 誰彼無く寄って行き 

甘え鳴きをしながら 飛び付こうとする

 

そうだったんだ

あの時 あの子が鼻をならして 飛び付き

クンクン匂いを嗅いだのは

案内板などではなく 

そこに 佇んでいた誰か

 

それに 気付かない私が 

間抜けな反応をしている間に

その人は立ち去り チーが後を追った

だから 脇目も振らず斜面を駆け登り

一直線に 祠に向かった

それなら 辻褄が合う

 

哀しきは 零感

私は 相手の意を酌むことが 出来なかった

「かたじけない」なのか

「余計な事をするな」だったのか

❲管理者にこの言葉お返ししたい❳

 

祠に背を向けた理由が もう一つある

自ら関わりを持つと 引き際が難しい

 

❲少女の頃のチーちゃん❳

 

右手にお散歩リード 左手には手向けの花を

大きめ斜めがけショルダーバックには

お墓参りセットを完備して

私は また祠の前に立つだろう

頼もしい相棒と一緒に