硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

人の失敗談に凹む

財団法人「広島市中央勤労青少年ホーム」

勤労青少年(15~35才)の余暇活動や

交流促進の施設として 運営されていたが

2021年度末で 運営を終了した事を知った

私が二十歳そこそこの頃

沢山の仲間と知り合った場所でもある

 

高校時代に始めた アコースティック・ギターを続けたくて

社会人になって知り合った人と デュオを組んだ

活動の場所として「勤労青少年ホーム」の会員になり 

フォークソング中心の サークルに入会した

プロ愛用のマーティン、ギブソンに「追い付け追い越せ」の気概に溢れた時代の良い国産ギター『Syairi』

 

年2~3回開催の コンサートに向け 

皆各々 好きなアーティストのコピーを 練習していた

 

5階には グランドピアノのある音楽室と

いつも卓球の音が聞こえていた トレーニング室

4階には 舞台のある小ホールと図書室

3階に 受付と向かいに広い談話室

会議のできる 明るい集会室があった

大抵何処かの部屋で サークルのメンバーが練習をしていた

 

相方が辞めて 音楽活動をしていなくても

サークルに残る人達もいて 

Kさんも その一人だった

時々やって来ては サークルの情報伝達や

アドバイスをしてくれる

明るく気さくな人柄の キュートなお姉さん

 

その日の 彼女は心なしか元気がないようにみえ

私から 声をかけた

少し沈んだ様子で「昨日の事なんだけど」と

皆に話し始めた

 

 

その日 彼女が練習の終わった友人と共に

建物を出て しばらくして

忘れ物をしたことに 気が付いた

友人を残して 慌てて部屋まで戻ると

彼女達と入れ替わりにやって来た

違うサークルのバンドが 既に演奏を始めていた

 

演奏の中断は避けたいと思い

曲の終了を待つ

そういう時の数分は 長く感じるものだ 

人を待たせているし バスの時間もあると 妙に焦った

廊下まで響き渡る音を聴くうちに

こっそり入れば 気が付かれないかもしれない

 

そう思い立ったのは

この演奏中の「Hurry  QC 」という名のバンドは

メンバー全員が目の不自由な人の

ジャズバンドだったから

 

意を決したKさんは ゆっくりドアノブを回し

わずかに開けたドアから 体を滑り込ませ

足音を立てないように つま先立ちで

数歩進んだ その時 

突然 音が止んだ

 

驚いて奏者の方を見ると

彼等もまた 彼女というより

ドアの方に 注意を払っているようだった

 

彼等が口を開くより先に

彼女は自分の非礼を詫びて 頭を下げた

ヒールの音を響かせ 移動し

忘れ物を掴んで 出口で再度

詫びの言葉を述べながら 頭を下げ

今度は音を立てて ドアを閉めた

 

居た堪れない気持ちで歩き出した 彼女の背後に

再び軽快なジャズが 響き始めた

 

人に話し慰められ いつもの明るい彼女に戻り始め

安心はしたが 

自分も同様な事をやらかしただろうと思ったら

私も凹んでしまった

親しい人の失敗談を 教訓と捉えるには 時間がかかるようだ