硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

幻の猫

息子にピアノを教えてくれていた先生は 猫に縁のある方だった 

二度も捨て猫を保護し  借家の大家さんから許可もらって育てていた 

 

ある日 レッスンを終えて山道を走行中 路肩に停まっている車に気付いて減速すると

先生の車に気が付いた若いカップルは 慌てて車に乗り込み走り去って行った 

「不法投棄でもしていたのかしら?」何気なくその場所を見みると 捨てられていたのは 小さな仔猫3匹だった 

産まれて間もない仔猫のようで 放っては置けない 動き回る猫をそのまま車に乗せられない 

先生が教え子の家に引き返し 箱を貰って戻ると そのわずかな間に茶トラの仔猫が轢死していた 

無事だった2匹を箱に入れ 轢死した遺体を袋に収容し 動物病院に急ぐ 

たくさんのダニや目やにをつけた 小さな仔猫を診察したかかりつけ医は「この子達のお母さんは過酷な生活をしていたみたいだね」と哀れんだ 

仔猫の世話について 説明を終えた医師は「見過ごす事も必要だよ」と 先生にやんわりと言った 

これで三度目の捨て猫の保護 里親を探す苦労を慮っての忠告だったのだろう 

その後 茶トラの仔猫を ペット霊園で荼毘に付してもらった先生は ひとりぼっちで 天に召された小さな命に「天」と命名した 

 

ピアノを教えている生徒で 猫を飼っている家庭は多い 

訪問した先々で保護猫の話をしてみるも 先生の話に労いの言葉をかけても「うちで引き取りましょう」という人は居なかった 

個人でペットを飼う場合「責任をもって飼える数」には限りがある 

当時 我が家にも2匹の猫がいて「完全室飼い」ではこれ以上は無理だと判断した 

その後も 保護猫の譲渡先探しは難航しているようだった 

ひと月位経った頃 先生から電話で引き取りのお願いをされて「これも何かの縁かも」と心を決めた 

生後ひと月半 片手の掌に乗る程の 小さな仔猫がやって来た 

臆病だけど甘えん坊な男の子  私は亡くなった兄弟に護られますようにと「天護」と名付けた 

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『漢字のブックマーク』

何かに驚くと 天護は直ぐに私の肩に駆け上がる おかげで 服も背中も傷だらけ 

息子は「サトシとピカチュウみたいだ」と羨ましがった...めちゃ痛いんですけど

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『博愛主義の珠玉(タマ)に マウント取りたがる天護』

 

「にゃんこ」が増えたと話したら 友人達が見に来てくれた 

玄関を開け「こんにちは~」 その第一声で 天護はリビング階段から二階へ逃亡し

呼んでも下りて来ず ご飯の時間になっても姿を現さなかった

 

その後も同様で 友人達から「幻の猫」と呼ばれるようになった 

それではと画像を見せると「ホントに居るんだ」「茶トラと白なんだね」と納得

 

十数年の時が経っても「天護」に会えない友人は 今でも名前ではなく「幻の猫」と呼んでいる

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『鈴付きリボン首輪は友人からのプレゼント』