硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

伝承技術と科学技術

中世より 石積みの巧者として名を残す「穴太衆」(あのうしゅう)

その伝統を継承する「粟田家」十三代目の万喜三さんの口癖は「石の声を聴け」

 

息子の純司さんは 近畿大学土木工学科を卒業して 父に弟子入りした 

粟田家に伝わるのは 熟練技術の石積みで 文書にされた技術書は無い 

黙々と石を積む父親に 土木理論を投げ掛けても「へ理屈ばかり言うな」と一蹴される

「石の声を聴き 石の行きたいところへ持って行くのが 穴太の石積みの鉄則や」

石工は土木技術者ではあるが「理屈ではなく盗んで覚える」職人でもある 

 

安土城の三の丸の石垣の 修繕工事にかかっていた時のこと 石を納めてバールを外すとコトンと音がしたんです その時納まったと感じました  これが石の声かと心の底から納得しましたね」

それは 純司さんが修業に入って 9年目のことだった 

 

土木理論を学んだ純司さんは 多くの人に知って貰うため 穴太の石積みを一般素人にも分かりやすく話をする 

石垣の修復にとどまらず 現代建築と調和する石積を造って行く 

これが穴太衆の技術を 後世に残していく継承者の思いだ

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「オーシャンソリューションテクノロジー」には 漁業者支援システム トリトンの矛」というソフトウェアサービスがある 

ベテラン漁師の「操業日誌」の情報をAIに学習させて その日の最適な漁場を予測するのだ 

出漁不可を含めた判断が 燃料費の削減に繋がる

五感(時に六感)を研ぎ澄ませた熟練者の 勘と長年に渡る経験を AI が可視化し

高齢化が進む水産業の世代交代をスムーズにし 効率の良い漁業を目指している 

 

 

近年 ウィスキーが世界的に人気らしい 

大麦を酵素で発酵させ蒸留し 木製の樽に詰めて熟成させて造られる 

3年以上の熟成でスコッチと名乗れる 

 

歴史と伝統を守る スコットランドの蒸留所の担当者は 味見の後

「出荷は 納得できる味に仕上がっているか次第」  

アイラウィスキーの蒸留所の担当者は「職人の鼻・舌・目が頼り」

煙臭いと言われる 独特の風味のウィスキー

「センサーは使わない 人の経験のたまもので機械化は出来ない」と言いきる  

 

そんなウィスキーの世界にも 現代科学が入り込む 

米国シリコンバレー 「エンドレス・ウェスト」社の「グリフ」は

熟成後のウィスキーと同じ成分を 天然の植物・果実・酵母から抽出し混ぜ合わせて造られる 

年単位の熟成を 一日で造る まさに『研究室生まれのウィスキー』 

「素晴らしい酒を造るのに 時間は必要ない」という事らしい 

熟成行程を経ない為 樽用木材はいらない 

製造に必要な水・農地も伝統的製法の10分の1以下で済む 

 

「ビースポークン・スピリッツ」社は ウィスキーの中に樽板の欠片を入れ 専用の機械にかけて圧力・温度を変化させ 樽の成分を抽出させる 

結果 長期熟成した場合と同じような『味・香り』が数日で実現する 

木材消費は従来製法の30分の1  熟成中の蒸発「天使の分け前」も防げる 

創業者の一人 ジャノーゼク氏は「伝統的な製造プロセスは不正確で予測不能 効率も悪い」と切り捨てる

熟成にかかる時間の短縮 資源と金銭的なコストの削減に繋がる

開発企業は 科学技術によりウィスキーの新たな価値観を提示した

 

科学進歩の恩恵は 素直に享受したい それでも「伝承」は必要だと思う

人を育てるには時間がかかるものだし 実りを待つ時間も決して無駄ではない

未来は予測不能だからこそ 面白い