硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

遺したいもの

連日の猛暑で乾いた白く平らな地面

月極め駐車場として 借り主募集の看板が立てられていた

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ここは 7月の初旬までは 私の実家があった場所

確かにあった 半世紀以上もそこにあった 木造二階建ての古い家

庭にリンゴ、紅葉、南天が大きく茂り 薔薇が隣の駐車場にはみ出していた

.....借地なのにね

 

最初に家を出たのは 東京の会社に就職した兄だった

もともとサッカー中心の生活で 顔を会わせる事が少なかったせいか 

兄の居ない寂しさは全然なかったな

しかし母は 当然の事ながら 私とは違いました 

ラジオを聞きながら夕食後の片付けをしていた母が 「これ歌っているの誰?」

そう言ってイヤフォンを差し出した

流れていたのは さだまさしさんの「案山子」

母親はいくつになっても母親 大人になった子供の心配をするものなのですね

その後 息子から多大な経済的な迷惑を被るのだけど

 

目の前に広がる真っ白 まっさらな地面

2015 年に父 2017年に兄  そして今年母が亡くなり 家は住む主を失った

残った私がうつわを壊して 棄てて ゼロにした

自身が若くないせいか 意外とサバサバしている

 

家族の膨大な不要品を始末するのに 悲しみに浸る暇が無いほど

私は大変なエネルギーを使った

県外住みの私に代わり 地元の従姉妹や親戚の人達にも 随分とお世話になった

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ほとんどの家財道具を運び出した後

 


あんなに物が溢れていても あの世に持って行きたいものなど何も無かったんでしょ?

誰の死に目にも会えなかったけれど 皆、安らかできれいなお顔だった

面倒な事も「あんたの好きにしたらええ」って みんな置いて逝ったものね

 

大切な物は何だったのか 誰かに遺したい物があったのか わからないまま処分した

でも 多分一番大切していたのは 苦労して建てたこの家

 

だから「物」ではなく「想い出」が遺ればいいよね

私が 親戚のみんなが 地主さんや近所の人達が この家の事を憶えていてくれる

それで充分でしょう?