硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

携帯電話の無い頃

タブレットを手放さない息子を見て 不意に思い出す

 

中学卒業のお別れ会で 皆が買って貰った携帯電話でメルアド交換をしている中 

携帯電話を持たない息子は 一人ポツンとしていたっけ 

高校入学後も 頑として「要らない」の一点張り 

結局スマホを購入したのは 部活を引退した高3の夏休みだった

 

それまで幾度も「持てば助かるのに」と思った

職場にいる私の携帯にかかった 息子からの電話を取り損ねると 

相手は「公衆電話」で返信不可 

たいていは「○○駅まで迎えに来て」なのだが 何度も行き違いがあって困った 

 

部活の友人にも 迷惑をかけた 

予定変更はメールで伝達できるのに 息子にはわざわざ家電にかけなければならない 

「もしもし△△さんのお宅ですか 野球部の□ですが☆君おられますか?」 

私は階段下から 2階の息子に声をかける 「野球部の□君から電話よー」

 

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スマホや携帯電話のなかった頃は こんなだったと思い出していた 

友人宅の固定電話に電話をする 呼び出し音が止まる

受話器の向こうは両親 兄弟 祖父母 それとも本人なのか ちょっと緊張したっけ 

 

夜 友人とお喋りが弾むと 固定電話を持ってコードが届くギリギリ

玄関横 階段の三段目に移動 腰かけたままで長電話をする 

階段横のトイレに入る父は「おいおい」と呆れ顔 

2階に上がる兄に気付き 顔も見ないで少し避けると チッと舌打ちして通りすぎる 

トドメはたいてい母 「たいがいにしときーよ」と声がかかったっけ 

 

こんな話を聞いた 

大ファンの歌手が ある日サプライズゲストでイベント会場に来ると知った友人は

同じくファンの親友に知らせなければと 思い立つが 

あの当時 一人暮らしの部屋に固定電話を引いている人は ほとんど居なかった 

なんとしても伝えたかった彼女が取った連絡方法は「電報」だった 

細かい内容は忘れてしまったが 二人は無事会場で 会えたそうだ 

 

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親友Naoちゃんは 社交的で友人が多く 退勤後真っ直ぐ家に帰らない事が多かった 

深夜 寝静まった家の電話が鳴る 

私が階下に降りる前に 受話器を取るのはいつも父親だった 

2階の自室から 顔だけ出して様子伺いをしている私に 

「Nao さんのお母さんから」と 階段下からぼそりと告げる 

この時々かかる「未だ帰宅しない娘を心配する電話」に 翌朝 父は何も言わない 

深夜に起こされた不満や 友人を誹謗するような事はついぞ口にしなかった 

 

遊ぶ機会は少ないのに 何故うちに電話がかかるんだろうと Nao ちゃんに訊ねてみた 

「ごめんね あれ母親が電話番号帳の友人欄を 上から順に掛けてるみたい」 

えぇ?! 深夜「当たり」が出るまで掛けてるの? 驚いた 

「じゃあ うちの電話番号を友人の一番下に書き換えお願いします」

「了解しましたー!」元気良く返事をしてくれたけど 

私が結婚しても 深夜お母さんがしっかり新居にかけて来たっけな  

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携帯電話が無い頃 不便さも待ちぼうけも許容できた 

今よりも時間は ゆったり流れていた気がする