硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

壁に残された物語

その小さな蜘蛛は 去年の夏頃から

我が家に住みついた

 

足先まで入れても 1.5センチ

体を覆うように糸で作られた巢

霞の向こうで 足を放射線状に広げて

全く動かない

 

この蜘蛛の名は「チリグモ」

微少な昆虫やダニを食べて 生きている

糸に触れた者を 捕捉するようなのだが

そういう姿を 見たことがなかった

 

リビングのカウンター置いてある

スマホ等の充電コードを使う度

横を向くと そこに居る

チリグモの巢は 丁度目線の高さに有った

 

冬になっても春が来ても そのまんま

「生きているのかしら?」

指でそっと触ると モゾモゾと動いた

「名前の通り チリでも食べてるのか?」

『いつまで居るのか 見届けよう』

そう思っていたのだが

 

5月20日の朝

何気に巢を見ると 蜘蛛の形がおかしい

近付いて見ると 巢の中に

[チャバネアオカメムシ]が居た

「おーっ 凄い大物を捕まえとるー!」

思わず 歓喜の声をあげる

 

早速スマホで撮影を始める 私

最短距離で ズームで 違う角度で

 

その時「なんかこれおかしい」

血圧を計測していた夫の 独り言が耳に入った

「何がおかしいん?」

そう言って振り返った

「妙に低い」

「低いんならええやん」

 

再度 撮影を開始しようとして 目線を戻すと

「あーーー!!」

クモの巣が破れて 中がカラッポ

夫の方を向いた時に

うっかりスマホを 当ててしまったらしい

 

蜘蛛は近くに居たが カメムシは見当たらない

「ごめんよー 折角のご馳走を」

何度も チリグモに謝った

 

『もう 場所替えしているかもしれない』

夕方 仕事を終えて帰宅後

恐る恐る リビングの壁を見ると

チリグモは 巢に戻っていた

「よかった~」

胸を撫で下ろす

 

しかし 翌朝 

クモの巣は もぬけの殻になっていた

この場所は 大家の暴挙のせいで

見限られてしまったようだ

 

今年は「チャバネアオカメムシ」が 大量発生している

奴らは 洗濯物や隙間から

家の中にも侵入する

 

もしかしたら あのカメムシ

チリグモが 捕捉したのではなく

リビングの壁を 這い上がっているうちに 

偶然 巢に行き当たったのではないかと考えた

 

だから 私はカメムシと格闘していたチリグモを

助けたと言えるかもしれない

『チリグモが仰向けになってように見える』

 

 

チリグモは巢を残しておくと

戻る事もあるそうなので

今も 壁に残してある

 

白い壁に半透明の空の巢は

見付けにくくなったけれど

『網状の巢から放射線状に梳糸(ソシ)を張り 触れた者を捕獲する』