硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

天井裏の産土神

私の家から 一人暮らしの義母の家までは 味噌汁の冷めない距離だ

毎朝 通勤前に寄って行く 

その日 いつものように座敷で 朝食の片付けをしていた時 

台所の方で ガタゴト不審な音が聞こえてきた 

義母が過ごす座敷は 家の奥にある そこは台所から 一番遠い場所だった 

いつもの事で 勝手口の鍵は掛けていなかった 

「泥棒?」そっと廊下に出て 足音を忍ばせながら台所に向かう 

 

台所のガラス戸に近付いた瞬間 突然 頭上から音が降る 

トットトットッ 天井裏を 何かが移動する軽めの足音 

直ぐに台所に走り込んだ私は 勝手口横に立て掛けてあったモップを掴んで 踵を返す

「うりゃうりゃ~」 天井に向かって モップの柄をドンドン打ち付けながら 廊下を走る 

足音の主は 慌てふためき逃げ惑う 

廊下から右折してトイレ 左折して玄関 戻って 手前の座敷に逃げさらに奥座敷

この先は行き止まりだ 襖に手を掛ける

「スパーン!!」

思ったより滑りの良い襖が 勢いよく開いた 

部屋の真ん中で テレビを観ていた義母は モップを持っていきなり現れた嫁に驚きもせず ゆったりと座椅子にもたれていた 

「ばあちゃん! 天井裏に何かおるんよ」大声で報告すると 

チラリと天井を見上げ 重々しい口調で「『うぶすな』 じゃ」と言った 

「えっ? 産土神!?」それって土地神様のことじゃん 

義母は真顔だし ノーリアクションだし (義母は耳が遠い)

いつの間にか天井の音が止んでるし 

もしかして 土地神様を追いかけ回した私は 天罰が下るのか?  怖いんですけど 

 

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「『産土神』あくまで投稿者のイメージです」

 

その事を夫に話すと「それは『のぶすま』の聞き間違いよ ムササビが入ったんやろ」と笑われた 

私は ムササビに「野衾」という異名があるのを初めて知った 

それからも 天井裏の足音は朝晩よく聞こえた 

不思議なのは 夜行性のムササビが すっかり明るくなった午前9時前に帰って来ることだ 

姿を確認してないので ムササビ以外の野生動物かもしれない 

 

 

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「『ムササビ』 あくまで投稿者のイメージです」

 

 

先日東京で地震があったが 私の住む地域でも大地震の予測がある 

南海トラフ地震が 今後30年で起きる確率は70~80%と言われているのだ

 

一部とはいえ動物は 地震を事前に察知する事ができるらしい 

この足音が聞こえている限り 南海トラフ地震は起きないような気がする 

まさに「産土神(ウブスナガミ)」に守られているようなものだ 

「もうモップの柄で 追い回したりしませんので どうか義母の家をお守り下さい」

私は 足音が聞こえる度に そう願うのだった