硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

占いに救われた

当たるも八卦当たらぬも八卦 来年の運勢を占う本が本屋さんの店頭に並び始める 

「お守り代わり」「ひとつの話題」「良きアドバイザー」「詐欺、インチキ」占いに対する考え方は人各々 信じる信じないも自由 

そして 私は占いで「信じる者は救われた」クチだ 

 

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私は結婚後 なかなか子供に恵まれず不妊治療を始めた 

原因は私にあり治療・投薬も結果に結び付かず 高度な治療をする為に地元の総合病院から 遠方にある大学病院に転院した 

当時「体外授精」は最先端の治療だった 

初めての「体外授精」は上手くいかず 不妊治療を始めて5年が経とうとしていた 

 

年が改まってまだ松の内期間 「有名占い師来店 ワンコインで占う」

大型商店街にある衣料品店のそんなチラシが目にとまった 

明記された占い師の名前は知らない方ばかりだったが 早速出掛けてみた 

お店の2階に簡単なブースが作られ お客10人くらいが一列に並んでいて 三人の占い師さんの空いた席に 順次着くようになっていた 

 

順番が来て 私が座った所は 年配の女性占い師さんだった 

聞きたいことはただ一つ「この先 私は子供に恵まれるでしょうか?」

彼女はタロットのような絵札をテーブルに並べて占った

「私の占いは半年先までしか分かりませんが、貴方が子供に恵まれる兆候はみえません」 それを聞いて心底ガッカリした

私の落胆した様子を気の毒と思ったのか 「別の占いでみてみましょうね」

そう言って女性が 今度は木製の長方形のサイコロ状の物を転がした 

それをみて キッパリとした口調でこう告げた

「子供は一人 女の子と出ています 貴方は子供に恵まれない人ではありませんよ」

「頑張って!」そう言って にっこり笑った 

この言葉でどれほど救われただろう 

 

不妊治療はモチベーションを保つのに苦労するが 「次回に懸けよう」そう気持ちを奮い立たせるには充分だった 

私が子供(長男)を授かるまで 結局7年の月日を要した 

 

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県外に引越した数年後 私は不妊治療を再開した 

以前の占い師さんの言葉「子供は一人」ではなく 今度は「女の子」に懸けたのだ 

だが一度目の「体外授精」が上手くいかなかった時 

夫から「一人授かったのだから もう止めよう」そう言われた

諦め切れない私は 友人から勧められた占い師さんを訪ねる事にした

霊感のある方で「心付け」の金額も決まっていないという事だった 

 

訪ねた占い師のさんの家は普通の一軒家で 予約時間まで玄関の長椅子に座って待っていると 二間続きの和室の奥で先客の男性の大声がする  

ねずみ講のようなシステムの洗剤販売「○ムウェイ」の上位(エグゼクティブ?)に自分が成れるかをしつこく尋ねているようだった 

「成れるか成れないかではなく...」答える女性の声は小さくてよく聞き取れない 

私の予約時間はとうに過ぎていた 

 

押し問答のようなやり取りが終了したのは 30分後だった 

ドスドスと足早に部屋から出てきた30代の男性は こちらに一瞥もくれず出て行った 

成功まで辿り着けると聞いたら あなたはさぞかし頑張れたのだろう

でも聞けなかった それでも 努力すれば望むものが得られるはずだ

世の中には 努力だけではどうにもならない事があるのをご存知だろうか

不妊治療は 目指すゴールが存在するかどうかもわからないまま 道を進まねばならない

まさに人知を越えた神の領域なのだ 

 

大きな木製の座卓を挟んで対面した占い師さんは 30代位の髪の長い女性だった 

紙に書いた私の名前と生年月日を見た後 私をしばらく見つめて 感情の無い表情のまま静かに告げた 

「貴方の子宮は真っ黒に見えます もう子供を授かる事は出来ないでしょう」

私は驚いて言葉が出なかった 代わりに涙がボロボロ溢れ出た 

嗚咽がおさまり ようやく「もう 駄目なんですね?」絞り出すように尋ねた 

彼女は少し表情を和らげて「治療に使うお金を 今いるお子さんに懸けてあげてください」 凛とした空気が伝わった

「とても良いお子さんですよ」

 

二人目への執着が消え失せ 私は不思議な程スッキリした 

暗い道を歩いていたら突然背中を押されて 気が付いたら明るく開けた場所に立っていた そんな気分だった 

私はこの占い師さんにも救われたのだ 

 

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二人の女性の占いは 何の根拠もないアドバイスだったのかもしれない 

けれど 相手を思い放たれた言葉は 受け取った私の心にじんわり沁みる

魔法ような言葉だった