硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

ねずみは嫌いだ

私が子供の頃 鼠は家の内外にいた 

困ったことに 食べ物を荒らし 物陰に糞尿をする 

天井裏でドタドタ大運動会も 珍しいことではなかった 

奴らは迷惑な 害獣なのだ 

 

ある日 どこに仕掛けていたのか

一匹の鼠が掛かった 金属製の籠罠を持った母が 

小学生だった私を呼んで こう言った 

「これを川に持って行って 沈めておいで 

水面に泡が浮かなくなったら おしまい 

中身は出して そのまま流すんだよ」

 

近くの川はちょうど干潮で 膝下まで水に浸かりながら 

私は言い付け通りに 鼠を溺死させた 

その当時の心境が どのようなものだったのかは 記憶に無い  

 

ねずみは嫌いだ だからハムスターを 飼おうとは思わない

 

 

数年前 職場でたまに 鼠を見掛けた 

二十日鼠だろうか 灰色の小さなやつが一匹 

見つけたら直ぐに補殺する ムカデやカメムシと違い 

お互い適度な距離をとって 過ごしていた 

 

状況が一変したのは 週末明けの月曜日 

デスクの周囲が 大騒ぎになっていた 

スライド式の物入れに入れていた おやつが引っ張り出され

椅子やデスクの上に 食い散らかしてあったのだ 

 

「クッションにおしっこされてるー!」 

「あー 印鑑が無くなってるー」

ペン立てにあった 木製の認め印を 何故か持って行ったようだ 

100均の三文判コーナーには無い 珍しい苗字なので

同僚は怒り心頭 

「ぶっ殺す!」ただならぬ殺気を感じたのか それ以来見掛けなくなった 

 

ねずみは嫌いだ だからアニメ「トムとジェリー」は 断然トムを応援する

 

 

 

朝日新聞2022年7月『be on saturday 』 掲載 

「24時間365日対応」「どんな患者も断らない」

そんなモットーを掲げる 訪問診療のクリニック

「ひなた在宅クリニック山王」の院長 田代和馬さんの

密着取材記事を 読んだ 

 

一人一人の患者と その家族に向き合う診察に

頭が下がる内容だった 

その感動的な実情よりも 私の頭から離れない会話がある 

 

ゴミ屋敷のような部屋で ベットに横たわる患者の元へ 

「あれ、飼ってたインコどうしたの」

「先生、ネズミに食われたよー」 

 

山の中の一軒家ではない

これは東京都内の話だということに 衝撃を受けた 

医者やヘルパーが 定期的に通わなければ 次に襲われるのは... 

映画や小説であった ネズミが人を襲うおぞましいシーンが 浮かぶ 

 

ねずみは嫌いだ だから年がら年中ニコニコした このキャラが苦手だ