硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

改宗した理由

義母は 8人兄弟姉妹の下から三番目 これはそんな 義母の親族のお話

義母の生家は山深い田舎に有り 今はもう住む人も居ない

 

一番年長の長女以外は皆 比較的近隣に住んでいる 

母親と同居していた長男は 優しい穏やかな人柄で

肉親を大事にしてくれる人だった 

優しい兄と義姉を慕って お盆やお正月には皆が実家に集まって

実母を交えて 賑やな一日を過ごしていたようだ 

 

実母は 長寿だったので 長く そのような親交が続いた 

しかし その習慣に苦しむ人もいた 長男に嫁いできた義姉だ 

嫁いで来た時から 小姑や小舅がいた大家族 

昭和一桁生まれの人なら 珍しい話では無いだろう

しかし ずっと農家と家族を支えて来た 控えめな義姉にとって 

長い間 母親の住む実家に 様子伺いに訪れる義理の弟妹が負担になっていた 

既に自立していた 自分の息子にはその不満を吐露していたようだ 

 

義母が若い頃に亡くなった 実父の法事の席だったか 

皆が実家に集まり 会食をしている時 何が切っ掛けかは分からないが 

突然 兄の息子が激昂した 

「これじゃあ 母さんが可哀想過ぎる」「俺の代で変えちゃる!」

そう言うと 席を蹴って夫婦で帰ってしまったのだ 

 

その後 息子夫婦がキリスト教に改宗したものの 親戚付き合いに大きな変化はなく 

高齢の母親を 自宅で看取るまで 義母達はできる限り兄夫婦の手助けをした 

 

夫婦二人の生活が落ち着いた頃 兄が前立腺のガンに侵され 緩和病棟に入院した 

「息子に見捨てられる」と嘆いていた兄も又 夫婦でキリスト教に改宗し

お墓の魂抜きをしたと 義母は残念がっていた 

 

程なくして兄が亡くなり 葬儀の為教会に足を運んだ義母は 

息子夫婦と 笑顔で談笑する義姉の様子を見て驚いた 

あんなに楽しそうな 義姉の顔を初めて見た気がしたからだ 

義姉は 此方にまるで関心がないような素振りで 言葉も交わさず式は終了した 

 

教会の外で 怒りの言葉を発したのは一番末の弟だった 

「わしはキリスト教を理解しようと本を読んだ」

「良い宗教だと思う でもあんた達の対応は何だ」 

義姉と息子夫婦に怒鳴る弟を 義母達姉妹は 宥めながら連れ帰ったという 

 

後日 兄の墓参りに行った義母は 箱のような変な墓で

息子夫婦と一緒じゃないと 入れないと言う 

多分 ロッカー式の納骨堂だったのだろう  

 

キリスト教だから 法事もなければお盆もない 

兄のために 兄弟姉妹が集うこともない 

それ以降は皆 元のお墓にお参りしている  

 

葬儀の折に見せた 義姉の幸せそうな笑顔は 

夫が亡くなると同時に訪れた 義理の弟妹達との 長く煩わしい付き合いが 

ようやく終了するという 待ち望んだ日だったのだろう 

 

 

信仰は 心の安息を求めるようなもの 

親族との交流を断つ為に 改宗した義姉達は今 幸せだろうか