硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

物語の結末は

物語の結末はハッピーエンドが良い

現実は 思い通りにならない事の方が 多いのだから 

読み終えた本を 幸せな気分でパタンと閉じたい 

恋のお話なら なおのこと 

 

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私が中学生の頃 同じクラスに優等生の女子が居た 

成績優秀で美人 リーダーシップがあり

少し大人びた 落ち着いた雰囲気のある人だった 

私とは 特に親しかった訳ではなかったが 二人で雑談をしていた時 

何故か「好きな人」の話になった 

彼女が口にした名前は「K君」 にわかには信じがたかった  正直「何でK君?」 

 

当時 私が通っていた中学校は荒れていた 

喫煙・暴力・校内の破壊行為 市内でもすこぶる評判の悪い学校だった

 

ヤバい上級生達が卒業すると 同学年の生徒の名前が悪い噂に登り始める 

K君はその中の一人で 遅刻・早退の常習犯 

「ケンカで相手にケガを負わせた」「先生に暴力を振るった」 そんな噂話を耳にした 

 

一学年は12クラスもあり 3年間クラス変えは無く

面識がない同級生は大勢いたが クラスが違うK君の事は 何となく憶えていた  

他人とは違う時間に ぽつんと登下校する姿を

目にすることが あったからかもしれない

 

先生や生徒が集合している時に 騒ぎを起こしたことは無い

彼は大抵 独りだった

   

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彼女とK君は縁戚関係にあるものの あまり交流はなく

子供の頃からの 顔見知り程度だったという 

素行が悪いと聞いても 自分とは何の関わりもない人だった

 

夏休みに入ったある日 母親に用事を言い付かって 彼女は祖母の家へ出掛けた 

玄関の脇をすり抜けて庭に入る 夏は縁側のガラス戸が開け放れていた

「おばあちゃん居る~?」 沓脱ぎ石でサンダルを脱ぐと

パタパタとリビングに駆け込む 

おしゃべりに興じながら 用事を済ませて さあ帰ろうと和室に戻った時 

縁側に腰かけて 庭を眺めている誰かの後ろ姿が目に入った 

K君だった 「...嫌だな どうしよう」 

しかし 一瞬でも足を止め躊躇した自分に 急に腹が立って 

足早に彼に近付くと 威圧的な口調で言った

「どいて !」 

 

その声に わずかに振り向きかけたK君が 少しうつ向く 

自分の足元にある彼女のサンダルを 履きやすい側に

クルリと向きを変え 揃えて置くと

ゆっくり腰を上げ 沓脱ぎ石の横に下り立った 

 

その予想外の行動に動転してしまい  「..ありがとう」お礼の言葉がせいいっぱい 

非礼を詫びる余裕もなく 素早くサンダルを履いて 庭を後にする彼女を 

K君は 無言のまま見送った 

帰りの道すがら 彼女は自己嫌悪に陥る 

「謝りたい」そんな思いを抱えるうちに「好きになっていた」 

 

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物語の結末は ハッピーエンドがいい

でも 人の心に永く残るのは  多分 哀しい結末の物語 

もう一つ どう転ぶのか明かされぬまま

結末を 読者の想像に委ねる物語もまた

記憶の底に 燻り続ける 

 

受験シーズンも 佳境に差し掛かった時期に

シンナーでラリったK君が 2階の外階段から転落して病院に運ばれた

あれから 彼女と話す機会も無いまま 私達は悲喜こもごもの合格発表を終え 

新たな旅立ちの 卒業式を迎えた 

そこに K君の姿はなかった