硝子の瞳と猫と

心温まる事 癒してくれるもの 綴っていきたいな

ステーン !!

当地では まだ雪が積もらないこの冬 

積雪といえば思い出す出来事がある 

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この地方には珍しく20㎝位の積雪があった日 

通勤の為 自宅から国道へ続く坂道を恐々車で下っていた 

道路中央部分についた幾筋もの凍結したタイヤ痕に注意しながら 緩やかなカーブを曲がって直線に入った時 

下り坂30㍍先 きついカーブの手前 道路のど真ん中にトラックが止まっているのが見えてブレーキを踏んだ 

トラックの若い男性ドライバーは車内で電話中だったが 通話終了後 此方に大慌てで駆け上がって来た 

 

運転席の窓を開けると ペコペコと頭を下げながら

「すいません その先まで来たら坂を上れなくなって」

彼は私が今曲がって来たカーブを指差し 今度は振り返る

「ブレーキ踏んだらあそこまで下がちゃったんです 今からチェーン着けますから ちょっと待ってもらえますか?」

そう言うと 急いで踵を返して駆け下りるドライバーは 車に着くまで三度も滑って尻餅をついていた 

「そんなに慌てなくてもいいのに」気の毒に思った 

 

通行量は少ないが 私は後続車の事を考えてハザードを点けて待っていた カーブの先に停車した私の車は認識しづらい 

しばらくすると 黒い高級車がカーブを曲がり終える前に 私の車に気付いて停まるのが見えた 

幸いスリップもせず ピタリと停車してほっとした 

 

ところが それから3分も経っただろうか 

いきなり後続車の運転席ドアが勢いよく開き 濃いサングラスにビシッとスーツで極めたお兄さんが 咥え煙草で降り立った 

「えっ? ....もしかして頭にヤのつく 自由業の人?」

 

彼からは その先にあるトラックは見えない 

道のど真ん中でハザードを点けた 私の車こそ明らかな邪魔者 ワケの分からない障害物に違いなかった

外の景色同様に 私の頭の中は真っ白になった 「や..殺られる?」 

 

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男が近づく 大股で一歩 二歩 三歩 四.. 

ステーン !!

この擬音を考えた人は天才だと思う 

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まさにそんな音がしたように 強面のドライバーが見事に滑り転けたのだ 

バックミラーで見ていた私も 思わず「わっ」と声が出たくらい 


トラックの運ちゃんは 尻餅をついては直ぐに立ち上がり走ったが こちらのお兄さんは 少し後頭部を打った模様

咥えていた煙草は何処かに吹っ飛び サングラスもずれてしまっていた

既にトラックの存在を認めた彼は 気まずそうに起き上がり 歩き出そうとして又 滑り尻餅をついた 

四つん這いで車のバンパーに捕まり ドアミラーを掴んで ようやく車内に戻ろうとしているその横を サクサク小気味良い音をたてながら 近所の女性が足早に 歩いて私の車に近付いて来た 

 

私が助手席の窓を開けると 

「出掛けようと思ったら ずっと車が停まったままだから様子を見に来たんだけど こういうわけだったんだ」トラックを見やる 

別の道の事を尋ねるので そちらはアスファルト舗装で滑やすいと言うと チェーン着けるから大丈夫と 長靴で積雪した坂道の右端を急ぎ戻って行った 

彼女の姿が見えなくなる頃 前輪だけチェーンを装着した先程のトラックが 道の端に寄って停まってくれた 

 

待つこと30分 ようやく国道まで下りる事が出来た

その後 私の慎重な運転のせいで 後続車のお兄さんに煽られ腹立たしかったが 

先ほどの お見事な転けっぷりを思い出しては 溜飲を下げた 雪の日のお話