朝晩の冷え込みが厳しくなる頃 ソレはやって来る
家族の集まる居間のど真ん中に現れる 四ツ足の魔物
まずは魔性仲間の猫達を己の腹に納める 魂を虜にして傀儡として使う為だ
ほら聞こえる 腹の中からぐふぅ..ぐふぅと忍び笑い いや これは珠玉(タマ)のイビキ
猫三人衆の中でも最弱 平和主義で知られているが もう魂を抜かれてしまったようだ
しかし人間は明るい昼間には ソレに近寄らない 皆外に出るからだ
勝負は夜 まず『先鋒』は息子
帰宅するや否や いきなり魔物の腹に蹴りを入れるが 足を飲み込まれ「痛い痛い」と悲鳴を上げる
ようやく引き出した足は出血して傷だらけ
しばらくして帰宅した『中堅』の夫が同様に挑み「イタタタタ」と同じく傷を負う
相手は腹の中で魔物に操られた黒猫 足を鉤爪で捕まえてからの猫キック
鉤爪でホールドされているので 足を引くに引けない恐ろしい攻撃
解除方法は一つ 「ごめんなさい そこに居るの知らなかったんです もうしません」 ひたすら謝り倒すしかない
...女性を怒らせた時の対処法と一緒だ
馬鹿め ひと冬に何度同じ過ちを繰り返しているんだ?
傷はカットバンで済む程度だが あれはお風呂に入ると沁みるぞ~
マゾヒスト共など うっちゃって いよいよ私の『大将』戦
魔物の腹をそっと覗いて トラップの無い所に堂々と足を差し入れる 無傷の勝利だ
セコい? 正攻法 だけで勝ち残って行ける程 世の中甘くないんだよ
だが 狡猾な魔物は私に次なる攻撃を仕掛ける
夕食後 ソレに足を飲み込まれて横たわった男達は 身体の自由を奪われたように たちまち怠け者に落ちぶれる
そんな彼らを操り ソレは台所に立つ私に「コマンド攻撃」を仕掛けて来るのだ
「カウンターの上のスマホ取って~」
「テレビが見え~ん (テーブルの)ペットボトル右にずらしてくれん?」
「ちょっと チャンネル変えてや」
「ねぇ 今日の新聞は~?」
次々繰り出される攻撃に スマホやチャンネルを投げつけたり 『自分で動けや』と応戦しつつ 私は玄関に走る
たたきにある段ボール箱から取り出した物を 籠に入れて居間に戻ると速攻
魔物の背中に強烈な一発をお見舞いする
ドン!!
愛媛のみかんは最強です!
「喰らえー! 籠盛りみかん!!」
たちまちソレは 魔物から只の「冬の風物詩」に変わっていく
わらわらと手が伸びて 起き上がった男達がみかんをほうばる
やれやれ術が解けたようだ
ついでにソレのシッポをコンセントから抜けば 猫にも見放されるだろう
人の動きを封じ 猫を操る恐ろしい四ツ足の魔物
ソレの名は「 コ タ ツ 」
だがお前の弱点を知る私に 死角は無い