ある朝 いきなりやって来た大家さんに そう言われた
突然のことで呆然としている私にかまわず 部屋の中にずんずん入ってくる
「あんたも悪いんだよ 断りもなく住み着いてんだし ショバ代も払ってないでしょ」
「あんたと隣の姉さんだけ 今日出てってもらうよ」
10人の姉達と暮らしていたお気に入りの場所 嫌だ出たくない❗
「なぜ 私と隣の姉だけなんですか?」
「他のお姉ちゃん達はそのままなのに …おかしいです」最後は涙声になってしまった
さすがに気の毒と思ったのか おばちゃんの口調が優しくなった
「洗濯物が汚れるって苦情が来たんだよ…仕方ないだろ
あんたと姉さんの部屋が干し場の真上にあるんだから」
周囲の迷惑も考えず 時々ゴミをポイ捨てしていた自分に ハッとした
「ほら見てごらん、他の姉さん達はちゃんと場所をわきまえて
部屋を選んでるだろ?」
言われてみれば 他の姉達は干し場から離れた風雨の影響を受けやすい
厳しい部屋に住んでいる
自分の無知さと非常識な行動に恥ずかしくて顔から火がでる思いで俯く
「わかってくれたかい?… でも、大丈夫だからね」
おばちゃんは 私の顔を覗きこむようにして 微笑んだ
「また 部屋を整えるのは大変だろうけど 良い物件 見つけておいたからさ
全戸南向き、眺望バツグン! 綺麗なお店が時々開いてお客も来るから
あんたにとっても悪い話じゃないだろ?」
「先住の子には 事情説明しといたから せいぜい仲良くしなよ」
踵を返して出ていこうとしていたおばちゃんが 急に足を止めた
隣の和室の方に 顎をしゃっくって示すと 声を潜めて
「部屋の隅にいる あの弱っちそうなの ストーカーかと心配してたんだけど
あんたの彼氏だったのかい? 」
先ほどから事の成り行きを 心配そうに伺っていた居候は おばちゃんに睨まれ
今や幽体離脱 無表情なまま固まってしまっている
( なんだコイツ! ) 内心舌打ちしながら おばちゃんには愛想よく応える
「友達以上 恋人未満 です!」
とたんに ヤツの魂が戻り そわそわし始める
「若いって良いねぇ~ 裏山 裏山 いいよ、その子も一緒に運んでやるから」
「心配いらな」と言いかけて おばちゃんが顔を寄せてささやく
「でも 先住の子には彼氏いないみたいだから…浮気されないように気を付けな」
いたずらっぽく ウィンクした 世話好きなおばちゃん ありがとう
「よっしゃー 行くよー!」イボ竹片手におばちゃんが気合いをいれる
棒で綿飴作るみたいに 糸を絡めとり 私と居候を 新居に連れて行くつもりなんだね
「 おりゃー! そりゃー!」イボ竹がぐるぐる回る
でもね、ワガママ言って悪いけど おばちゃん もう少し優しく運んで
…頭くらくらで意識遠のく…今度は私が幽体離脱